残念なことに、わたし太郎は若い頃から妙齢の女性にはもてたことがない。
しかし三十を過ぎた女性たち、子供たち、そして散歩の途中で出会う犬たちにはものすごく好かれた。
中小企業の社長がする仕事の中でもっとも重要なのは「営業」だといわれている。
わたしは営業の基本といわれる「飛び込み営業」を一度もしたことがない。
取った仕事はそれほど多くはないが、すべて「棚ぼた」であった。
社長就任祝いとして、よく知られた婦人下着メーカー(十年ほど前に物流の一元化で京都に集約された)の副社長を紹介してくれたのが、義叔母の知り合の、それはそれは美しい四十代の、当時ではまだ珍しかった女性管理職のMさん。
「肉の〇〇」の冷凍車の仕事を紹介してくれたのも、当時の巨大量販店の常務で指導教授の同期生D氏…………。
わたしが営業を嫌ったのは、「君自身の人格ならびに他のすべての人の人格に例外なく存するところの人間性を、いつでもまたいかなる場合にも同時に目的として使用し、決して単なる手段として使用してはならない」という『道徳形而上学原論』のなかのカントの一言に心を奪われていたからである。
このカントの道徳律を心の内より捨て去ることができ、もっと非人間になれていたなら、ひょっとすると会社をもっと大きくできていたかも知れない。
こんなことを妻に語った時「それは違うわ」とひとことで否定された。
Mさんが婦人下着メーカを紹介してくれたのは、あなたのことを気に入っていてくださったからよ。
D氏が「肉の〇〇」を紹介くださったのもそう…………。
あなたが人から好感を持たれるのは、きっとカントの道徳律がしっかりとり身についているからだと思うわ。
だってわたしがそうだったもの…………。
人はその人を知っていて、気に入っていて、信頼している人にしか仕事や紹介を回さないものよ。
貴方みたいな人が本当の営業マンなの。
決して棚ぼたなんかじゃないわ。
幾ら贔屓目にみたところで、わたしが本当の営業マンであるはずがない。やはり「棚ぼた」に過ぎなかったのだと思う。
ところが妻が言ったのとそっくり同じ言葉を、つい最近、ある出版社から送られてきた動画のなかで知った。
「他の条件が全て同じなら、人は知っていて、気に入っていて、信頼している人に仕事や紹介をまわす」
こにような人間になることが「営業の極意」だという。
さて今日も、㈱ T-logistics の資料を使って、7月度の資金繰り予測表(ここでは資金収支表)の作成に取り組むことにする。
毎回同じような資料で見飽きたかもしれないけれど、何べんも同じことを繰り返しますけれど、この表をまねて、ぜひ自分の手で資料をつくってみてください。
12か月分の作成を終える頃には、資金収支表(資金繰り表)が自分でできるようになっていることでしょう。