株主総会開催日の五週間前に、財務諸表に「事業報告」を添付して、監査役に届けなけならない。
株主総会招集通知には、監査役が署名捺印した「監査報告」の複写が不可欠だからだ。
「事業報告」は監査役ばかりでなく、財務諸表・付属明細書、借入残高一覧・別表等とともに、取引銀行に決算報告をする際にも必要である。
経営分析とキャッシュフロー分析を終えてから、売上高、売上原価、売上総利益、一般管理費、営業利益、営業外収入、営業外比費用、経常利益そして部門別損益を、前年実績と経営改善計画と比較し、「事業報告」に分かりやすく克明に書き込んでいく。
誰に読まれてもいいように、一応念入りに書いておくのだが、心の底では誰も読みはしないだろうと思いながら銀行に提出したところ、目の前で支店長・次長にじっくりと目を通され、質問されてぎょっとさせられた経験がある。だからいい加減に書くわけにはいかず神経を使う。
前年比はもちろんのことだが、経営改善計画は、経常段階の利益で、少なくとも八割以上の達成を求められるから、売上高経常利益率10%を達成なんて、あまり大ぶろしきを広げない方がいい。5%の達成だって難しい。
わたしが亡父から引き継いだ会社は運送会社だが、黒字同規模事業者の平均経常利益率でさえ1%にすぎないのである。
銀行の「格付スコアリング・シート」では、五点満点の売上高経常利益率は4%以上、同じく五点満点の収益フローが三期連続黒字となっている。
コンサルタントのなかには、「安全性の指標」のなかのひとつ「ギアリング比率」(有利子負債/自己資本)とか「債務返済能力の指標」のなかの「インタレスト・カバレッジ・レシオ」(営業利益/支払利息)の改善なんて、耳慣れない横文字の指標をもってきて経営者たちを驚かせる人たちがいるけれど、肝心なのは「売上高経常利益率がマイナスでないこと」、「三期以上連続して黒字を出し続けていること」の二点である。
できることなら借金などはしないほうがいいけれど、やむを得ず借りなければならない場合もある。そんなときに銀行借り入れを容易にするには、売上高経常利益を少なくとも1%以上、直近三カ年以上黒字を継続していることだ。赤字続きなのに、資金が足りないからと言って、借金を申し込もうなどと考えるのはあまりに安易にすぎる。
借入を申し込む際に、融資担当者から「担保の有無」を問われ、貸し出しが可能と判断されれたらあわせて「経営改善計画書」の提出を求められる。会社発展のために、どうしても借金をすることが必要なら、担保を提供するのはしかたがない。
銀行から求められて「経営改善計画を作成」するときに、真っ先に社長が考えがちなのは売上高を伸ばそうとすることだ。
10年ほど前のことになるが、㈱ T-logisticsでは、運行課が出していた赤字を補填していた商品管理部が、取引先の物流関西一元化にともなって売上高がなくなり、会社設立以来初めての大赤字に転落してしまった。しかしいくら赤字を出していたといえ、運行課が取引先からあずかる貨物量は決して少なかったわけではない。暮などにはターミナルの天井に届くほどに荷物が溢れて、翌日の配達に支障をきたすほどだったのである。
一台のトラックに積み込める貨物量は限られている。積み残った貨物がたったひとつであっても、もう一台トラックを出さなければならない。赤字を出しつづけて来た原因はそれだった。
何の策も打てずに三期続けて赤字を出した前社長は退陣。新たに就任した三十一歳の新社長が真っ先に取り組んだのは、不採算路線の廃止であった。
預かる荷物はこれまでの三分の二以下にまで減少し、売上高を大幅に下げてしまったが、一台のトラックに集めた貨物のすべてがおさまるようになった結果、㈱ T-logisticsの「売上高経常利益率」はV字型に回復し、商品管理部が失った収益を、遥かに超えたのだった。
しかも徹夜続きで寝る間もなかったほど忙しかった暮も、わずかに残業をするだけで従業員は帰宅できるようになった。
このように売上高は大きければいいというわけではない。要は収益があがるか否かなのである。
これと同じような話を楽天に出店している某店舗経営者から聞いたことがある。
楽天の担当者から、取り扱う商品数をもっと多くして売上高を上げなさい、と指導された。担当者の言葉に素直に従って商品数を増やしたところ、確かに売上高は上がることは上がった。しかし、在庫は増えるばかりで、売上高経常利益率もどんどん下がり続けていった。客からの苦情電話も増えていって、対応に時間をとられ、発送の仕事も手につかなくなり、店舗評価も落ちる一方だ。
客との対応にくたびれ果てた店長は、商品の棚ぞろえを元に戻すことにした。
売上高は大幅に下がった。
しかし、収益が回復しはじめるとともに、客との対応の時間もたくさん取れるようになって、店舗評価も再び高くなりはじめていった。
楽天(だけでなく)店舗担当者のなかで、経営者が必要とする「管理会計」を会得している人は皆無と言っていいだろう。店舗担当者のいうようにもちろん売上高の大きさも大切だけれど、より肝心なのは、売上高経常利益率が上げられるか否かにある。
繰り返そう。銀行の「格付スコアリング・シート」では、五点満点の売上高経常利益率は4%以上、同じく五点満点の収益フローが三期連続黒字。
経営改善計画では、売上高ではなく、売上高経常利益率をわずかずつでも上げていくこと、そして黒字を何期も連続していく」ことを主眼において、銀行が求める最低でも80%の達成ができる、無理のない目標を設定しておこう。
三期続けて赤字を出して退陣した前社長から会社を引き継いだ ㈱ T-logisticsの若き新社長は、就任以来8年間、平均4%以上の売上高経常利益率を守り続けている。
話がわき道にそれてしまった。
「経営改善計画書作成」をできるようになるためには、期を終える毎に、決算書(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・キャッシュフロー計算書・付属明細書等)から社長自らが経営分析を行い、その結果に基づいて「事業報告」を書く練習をしておくことだ。決して顧問税理士任せなどにはしないことだ。
何故なら「事業報告」を書くことは、前の期の経営分析を行うことで期首に取り組むことを決定した課題が達成できたか否か、翌期新たに何と取り組むべきかということを明確にする作業でもあり、それは「経営改善計画書」を小型化したものだともいえるからである。
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