先日、寝付かれないままマルコム・グラッドウエルの「成功する人々の法則」を読んでいて、次の言葉を見つけた。

「才能ある人間の経歴を調べれば調べるほど、持って生まれた才能よりも、訓練の役割がますます大きく思える。・・・。調査から浮かび上がるのは、世界レベルの技術に達するにはどんな分野でも、一万時間の練習が必要だということだ」

一昨年の暮れのことだった。取引銀行に年末の挨拶に訪れたとき、融資窓口で粘っている、こんな社長さんを見たことがある。

「三千万円さえあれば会社はどうにかなるのです」

困惑顔をした行員を前に、銀髪の社長さんが熱心に話している内容に耳をそばだてながら、どうして、三千万円あればどうにかなるという証の資料を整えてこなかったのだろうか、と私は思っていた。

中小企業の社長にはモノづくりや営業に強くても計数に弱い人が多い、と林田 俊一は『黒字をつくる社長 赤字をつくる社長―うちの会社は大丈夫か』(祥伝社黄金文庫)の中で述べている。

恥ずかしながらわたくしは、モノづくりや営業はいうまでもなく、肝心の計数にもからきしダメな二世社長だった。

 

私の知る五十代の社長は、売上高百億を超える会社を「経営」している。父親の会長がカリスマで、銀行からきた役員が会計のすべてを握っているから、数字がまったく分からない。分からなければ勉強の時間をつくればいいのに、それさえしない。

私も父からは何の指導も受けてこなかった。設立時から今日までの決算書から資金移動表(資金収支表・キャッシュフロー表に近似)を作成し、前期の決算の数字と各事業部から提出された予算表に基づいて、これから先一年間の資金繰り表を作れるようになったのも、すべて独学であった。

四十年以上会社を経営しているから、その分野でならマルコムのいう「一万時間」ははるかに超えている。

その経験の中から学び得た肝心要の「大黒柱」が、「資金収支表」(当時は「資金移動表」)の作成をできるようになったことである。 

「資金収支表」とは「損益計算書」と「貸借対照表」から、一定期間の資金の流れを総額でとらえ、現金収支の適合性を見る表のことである。 

この表の作成さえ習得できたなら、「経営分析」の土台は、ほぼ出来上がったも同然だ、と言えるだろう。

 手始めに、この表の作成から始めたいと思う。

「でも資金収支表なんて面倒なものをどうして作成しなければならないの? 損益計算書をみれば、利益が出ているかどうかなんかすぐに分かるじゃないの」、と仰る方がおられます。

極端な例を申し上げます。
売上のすべてが半年先に入金される「売掛金・受取手形」だとします。「買掛金」や「賃金」、「諸経費」、「借入金の返済」等はすぐに払わなければならないとなれば、いくら利益が出ていたとしても資金はすぐに詰まってしまう。「黒字倒産」ということも現実にありうるのです。

利益を出すことはもちろん大切なことですが、会社運営にとって一番大切なのは「資金繰り」です。そのためには、「資金収支表」の作成が不可欠になります。

「資金収支表」の作成になれてしまえば、「営業力」・「ものづくり」に得意な中小企業の社長・二世社長にとって、「鬼に金棒」になります。