いまから六十年も前の高校時代に、エーリッヒ・マリア・レマルクの作品と出会い、勉強を忘れてしまうほど夢中になってしまいました。大学院に進学して、研究テーマとして「ファシズム論」を選んだのはレマルクの影響といえるでしょう。
大学時代の友人が、銀行の駐在員としてデュッセルドルフに赴任したときに、わたしがレマルクの大フアンであることを知っていて、ドイツ語の原書を、そしてアメリカに出張した際には英語版を買い求めて送ってくれました。
『愛するときと死するとき』(訳者はドイツ留学中にレオン・トロツキーに出会い日本にトロツキズムを紹介した。レマルクの作品の翻訳者としても知られる)を、プロットを抽出する目的で、ドイツ語の原典と英語版を合わせ読みながら、もう一度ひもといてみた。
主人公が賜暇をえて故郷に帰る駅舎で、ナチの将校から命令がくだった。
「ラインランド地方への賜暇帰休兵、三歩前へ!」
数名の兵士が列から前へ出た。
「ラインランド地方への賜暇は取り消す」
そして一番近くに立っていた兵士をふりむいた。
「君はそのかわりにどこに行く?」
「コロンです」
「ラインランド地方は制限されていると、いま言っただろうが。そのかわりにどこへ行きたい」
「コロンであります。(中略)わたくしはコロンの出身であります」
「コロンへ行くわけにはいかんのだ」
「わたくしの妻と子供たちはコロンにいるのです。わたくしはコロンで錠前屋をやっていました。わたくしの賜暇証明書には、コロンのスタンプが押してあります」
このように「コロン」という地名が何度も何度も繰り返し出てくる。
コロン? わたしもドイツへは何度か訪ねたことがあり、ラインランドは、ドレスナー銀行日本支社の職員で、わたしにドイツ語会話の個人レッスンをしてくれたマルリースの故郷でもあった。しかし、「コロン」という地名はただのいちども耳にしたことはなかった。
確認のために、友人がプレゼントしてくれた英語版を開く。
“Men with furloughs to the Rhineland, three steps forward!”
A few men stepped in front of the line.
“ Furloughs to the Rhinelamd are canceled,”announced the officer.He turned to the man standing nearest him.
“ Where do you want to go instead?,”
“ To Cologne. ”
「Cologne」は「コロン」と読むのだろうか。
もう一度同じ個所をドイツ語版で開いてみた。
Ein paar Leute marrschierten vor die Front.
“Der Urlaub nach dem Rheinland ist gesperrt worden,”
erklärte der Offizier.
Er wandte sich an den Nächststehenden.
“Wohin wollen Sie statt dessen?”
“Nach Köln.”
ドイツ語版をみて「コロン」が「ケルン」であったことがはじめてわかりました。
ケルンはドイツの大都市のひとつです。念のために長男が高校時代に使っていた「新高等地図」で、ドイツの地図を調べたところ、やはり「コロン」ではなく「ケルン」( Köln)との表記がありました。
翻訳者はドイツ語版ではなく、英語版を使用して「コロン」と訳されたのでしょうけれど、やはり「ケルン」としておくべきだったのではないでしょうか。
わたしには知人から、「衒学者」すなわち学問や知識のあることを自慢して見せびらかす男と、あざ笑われた経験があります。
自分ではできるだけ隠すようには心がけてはいるつもりなのですが、あるいは隠しきれていないのかもしれません。
深く反省もしていますので、どうかご勘弁ください。
下に載せておいた人物相関図「要約」のなかで、新婚の夜、一糸纏わぬエリザベートが、エルンストに抱かれながら、「あなたの子供が欲しい」と囁いた一言を、意図的に書き加えておきました。
文芸評論家の島内景二氏は、物語は繰り返される と教えています。
二週間の賜暇、そしてわずか三日間の新婚生活からロシア戦線に戻った主人公エルンストは、助けて逃がした捕虜の一人に射殺されてしまいます。エリザーベートのお腹には、エルンストの二世が宿っているものと思われます。疎開から戻ってきたエルンストの両親に見守られながら、やがて訪れてくる新しい時代をつくりあげていく、エルンストとそっくりの、感受性の豊かなそして人にやさしい青年に、お腹の子をエリザベートが育て上げていくことを、暗示したつもりです。
またまたテーマとは全く関係のない無駄話を、長々としてしまいました。
キャッシュフロー計算書を利用した「資金繰り表予測表11月」の作成をいたしましょう。
何度も申し上げます。勉強は教えられるものではなく、自分でやってみることです。エクセルでもノートでも構いません。表を見ながら、お好きな方法で、ご自分の手で作成してみてください。
では次回またお目にかかりましょう。