わたし太郎は、経営者としての人生の大半を「管理会計」を習得するために費やしてしまった。
亡父から会社を引き継いでからの決算書をすべて書棚から取り出して、「暦年財務諸指標」を作成していると、自分のあまりの無能さに恥ずかしくなってくる。
ただ過去の財務諸指標を眺めていると、指標の裏に隠れた、さまざまな出来事がひとつひとつ、それもありありと目に浮かんでくるのは、経験したものにしかわからない、いわば怪我の功名といったものかもしれない。
数々の失敗を重ね、せっかくの投資を無駄にしつづけてきた、無能極まりないこんなわたしを、会社の守護神(取引先、社員、金融機関など)は、よくこれまで見捨てることなく我慢し続けてきてくれたものだ。
時間はたいぶかかってしまったが、おかげでさまで、20年ほど前に、計数を、やっとのことでマスターできた。
諦めずに取り組みつづけてきた、成果だろう。
わたしは新田次郎の山岳小説が好きだ。
どの主人公たちも、わざわざ極寒の冬場を選んで、絶壁を登り始める。
多くのクライマーたちが途中で凍え死んだり、足を踏み外して宙づりのまま命を失う。
凍傷にかかって両手や鼻先、足の指先を失っても、生きている限り、かれらは登攀を諦めない。
わたしは主人公たちの姿に自分を重ね合わせてみる。
わたしたち誰もの人生だって、クライマーたちの人生同様に、決して平穏無事なものではありえない。
死の底を垣間見ることだってしばしばだ。
暦年の財務諸指標をただ横並びして眺めてみるだけで、経営者なら、死の底を垣間見み、自分がもがき苦しんできた情けない姿が頭に思い浮かんでくる。
中小企業白書によると法人創業後の生存率は、1年後73%・5年後42%・10年後26%となっている。別の資料だが、生存50年を超える法人生存率は16%、100年ともなるとわずかに0.1%。
そしてかってのわたくしのように、あるのは意気込みだけで、計数をまったく理解していない二世経営者が会社を引き継ぐ創業30年ごろが、会社をもっとも危機に陥れてしまうのだそうだ。
わたしのようなぼんくらが会社を維持できてきたのは、まったくの奇跡でしかない、と思う。
でもそんなわたしでも、二世経営者の重責にもがきつつ、塗炭の苦しみの中で、「計数」という岩壁を、諦めることなくよじ登り続け、人さまから見ればなんていうこともない頂きかも知れないけれど、ようやくのことで到達することができた。
二世経営者の皆様には、わたしと同じ苦しみ、同じ道を、絶対に歩んではほしくない。
このブログを読み、計数の基礎訓練を積んで、それを土台として、さらなる高い極みを目指して登攀し続けていってほしい。
「経営分析」の「まとめ1」として、㈱ T-logisticsの若社長が采配を振るい続けた暦年資料(8年間)を掲げておく。
皆様もこれをまねて、自社の決算書を紐解き、「財務諸指標」を算出して暦年資料を作成し、同業他社の財務諸指標」と必ず比較検討をしてほしい。
次回は ㈱ T-logisticsの暦年資料(8年間)から浮かび上がってきた問題点が生じた象徴的な出来事を、遠い過去2期の「財務諸指標」を参考に明らかにして、「経営分析」の最終回としたい。
次回のテーマは、「経営分析のまとめ2」。