百貨店と量販店とをあわせて展開していた一部上場企業の、専属運送会社を、父の後を継いで間もなくのことだった。
社長にはなりはしたものの何をしたらいいのか何もわからなかったわたしに、父から命ぜられた初仕事は、運賃値上げ交渉だった。
経済学部を終え、大学院に進んだといっても、わたしが選んだ研究テーマは「ファシズム論」だったから、簿記を学んだこともなく、計数はまったくお手上げ状態だった。
困りぬいたわたしは、決算書を手に、大学院商学研究科に在籍する、中小企業診断士の資格を持つ友人のアパートを訪ね、事情を話した。
友人は決算書を手にすると、一時間もしないうちに、「運賃の値上げ資料」作成し終えた。
作り終えた資料を友人が丁寧に説明してくれたが、わたしには何が何だかさっぱり理解できなかった。
翌日、友人が作成してくれた資料を携えて、取引先本社を訪ね、常務取締役を兼務する財務部長席の前に座った。
財務部長は、友人が作成してくれた資料に目を落とした。
時間が停止する。
ふと気が付くと、傍らに立っていたのは、銀行から出向してきていた役員で、やはり常務取締役を務めていた。
父に連れられて、社長就任のあいさつに訪ねた時、顔を合わせたことがある。
「計数も分からないで、運賃値上げの交渉ですか。話になりませんな」
見抜かれた!
わたしが黙って俯いたとき、財務部長が静かにつぶやいた。
「いや、この社長は、計数が分かっていますよ」
銀行から出向してきた常務取締役は、信じられないといった顔つきで、首をかしげながら、席を離れていった。
『企業分析』(山口孝 新日本出版)という、私の生涯のバイブルとなった書物を見つけたのは、財務部長に運賃値上げを認めてもらって、父に報告に帰る途中で立ち寄った書店でのことであった。
運賃値上げの資料を作成してくれた友人も「役に立ててよかった」と喜んでくれた。
今回のテーマは、「資産効率を計る指標」その3「固定資産回転期間(月)」。
「固定資産回転期間(月)
固定資産 ÷ 月売上高l
指標の意味
月売上高の何か月分の固定資産を持っているかを表す
判断基準
短いほうがいい
次回のテーマは、「資産効率を計る指標」その4「仕入債務回転期間(月)」。