亡父から会社の代表者を引き継いだ時に、きつく申し渡された言葉がある。

「大学院で少々学問を齧ったくらいで、なんでも知ったかぶりの似非学者だけには決してなってくれるな。社員に対してはもちろんのこと、取引先の方々に対しても、上から目線で見るようなことをしてはならないし、絶対に高飛車な態度にでてはならない。そんなくそ生意気な態度をとるくらいなら、かえって馬鹿な奴だ、ぐらいに思われていたほうが、仕事の上では得策なことが多い。そう心得ておきなさい」

短気で少しばかり小生意気であったわたしを心配してことだったように思う。

「別に馬鹿を装わなくても、お父さんもすでにご承知のように、生まれついての馬鹿ですので、そのような心配をすることは、無用とお心得ください」

わたしの返事に、ただ口をパクパクさせて、呆れ顔で窓外を眺めていた亡父の顔が、今でもありありと浮かんでくる。

もう何十年も前に、亡父が新規事業に取り組もうとしたときのことである。

技術を学ぶために、友人の学友である社長室長の伝手で、赤坂紀尾井町にある高名なホテルの、その地下で、一年ほど修業をしたことがあった。

直接課長から命じられての、毎日毎日汗水を垂らしての下働きは楽しくてならなかった。

「会社の社長と聞いていたけれど、頭は低いし、全然威張っていないね」

同じ職場で一緒に働いていた人たちの感想を、直に亡父に聞かせたかった。

会社の跡を継いで以来、今日まで、従業員たちや取引先のみなさまがたからは、「少しばかり頭が弱いようだけれど、あの社長、大丈夫だろうか」、とかえって心配をされ、45年間の長きにわたって助け続けてくださったおかげで、当社のほぼ100%の売り上げを占める取引先が巨大スーパーに吸収されてなくなってしまったり、景気の波に翻弄され続けてきたものの、幸運なことに会社を潰さずにこれたのである。

「馬鹿でよかった!」、とつくづく思う。

さて本題にはいろう。

銀行に借り入れを申し込むと、「過去三期の決算書」とこれから先一年間の「事業計画書」の提出を求められる。

これは、「中小企業金融公庫(日本政策金融公庫)」が主催する「地方銀行融資担当者」を対象とした講習会に、当社担当者に頼んで、無理やりねじ込んで参加させてもらってわかったことだが、「過去三期の決算書」とこれから先一年間の「事業計画書」を分析しただけで、借り入れを申し込んできた企業の内容が、恐ろしいことに、ほとんどつかめてしまう、ということであった。

「T-logistics 社」の過去三期の決算書から解かってしまう内容をすべてここに記しておこう。この表から、皆さんはどこまで読み取れるだろうか。

連続損益計算書



連続原価明細書



連続損益分岐点分析



連続貸借対照表



決算書から浮かび上がってくる「資金繰り表」