「二世・三世社長はダメだ」
その見本にあげられているのが、ダイエーの中内潤さんだ。
「ダイエーの創業者の中内功氏は、商学で博士号を持つ長男の潤氏を後継指名し、30代の若さで副社長につけ、米国仕込みの安売り店「ハイパーマート」など、重要な事業を任せた。しかし、うまくいかず、後のダイエー経営の重荷となった」、と経済記者は書いています。
しかし兆を超える売り上げを持つ巨大量販店ダイエーの凋落の原因は、元を正だせば、「借金は財産だ」といって、店舗出店の資金をすべて借金に頼ってきた創設者中内功氏にあったといえる。「利益」と「キャッシュフロー」(次回からのテーマ)はまったくの別物なのです。
潤さんは、わたし太郎がまだ大学院に籍を置いていたころの後輩(中小企業診断士)と、同じ研究室で学ぶ仲間。
「潤さんは凄い! 言うことが違う。ゼミの中で突出している」、とはその後輩の言葉。
「ハイパーマートなど、重要な事業を任せた。しかし、うまくいかず……」と記事にはあります。しかし、ダイエーがうまくいかなかったのは、潤さん一人の責任ではありません。「新会社を設立して1年後の生存率は2%」とも言われ、倒産の原因の大半は、「資金不足」によるものです。
キャッシュフローを等閑視していたために、ダイエー本体が二兆円という莫大な借金を背負っており、バブル崩壊後の消費低迷の煽りがもろに直撃し、ダイエーの足元自体が危うくなっていたというのに、責任のすべてを潤さんに押し付けてしまうというのは如何なものでしょう。
「潤さんを一度、ほかの会社に預けて修業させなさいよ」とアドバイスし、「もし外でいろいろ経験を積んでいたら、潤さんの経営のかじ取りはもっと柔軟に変わっていたかもしれない」、との記事を書いた経済記者は、おそらく「管理会計」の知識をもっていなかったのでしょう。
問題は、「外でいろいろ経験を積む」というようなことではないのです。
商学博士である潤さんもおそらくは、会計学は教科書で学んだ程度。あれほどの才能をお持ちの方ですから、ハイパーマートなどの新規事業に手を染められる前に、会社の自室に籠って、一年ほど「管理会計」の習得に全力をあげられたらよかったのに、と残念に思えてなりません。
二世経営者は、わたし太郎にも経験がありますが、潤さんのように「博士号」を持っておられるかたならなおさらのこと、「えっ!? こんなことも知らなかったの」、現場育ちの社員そして社外の人たちからは馬鹿にされ軽く見られてしまう哀しい宿命を負っています。
新事業に成功して、そんな社員たちを見返してやろうなどと慣れない仕事に頑張る以前に、一二年をかけて過去の決算書を紐解いて経営分析を行い、自社の改善すべき点を見出し、その解決に全力を致す必要があります。
販売単価×顧客数×店舗数
ダイエーは、投資なくしてできる「販売単価×顧客数」を等閑視して、莫大な投資を必要とする「店舗数」を増やすことのみに拘泥しすぎた。百貨店のノウハウをうるために、一部上場の会社を買収するようなことまでして、ただでさえ足りない資金を費やした。
あれだけの売上高があったのだ。すべきことは新規事業や会社の買収をすることではなく、「売上原価・販管費・営業外経費」の「改善に次ぐ改善」に焦点を合わせて「内部改善」に全力を尽くし、資金を生み出すことだった。
ダメな二世社長の代表のように記事には書かれていたけれど、会社を危うくしたのは、ひとり潤さんの責任ではなかった。
二世経営者の皆さん!!
『だから二世・三世社長はダメなのだ』、なんて馬鹿にされないためにも、成功の確率の低い「新規事業・新規開発」などに手を染める前に、少なくとも一年間ほど、黙々と「管理会計」の習得に全力を尽くしてください。
簿記の勉強ではなく、「管理会計」の勉強です。
「管理会計」と「税務会計」は似ているように見えて、まったく別物ですから、税務のことなら構いませんが、税理士の指導を仰ごうなどとは決して考えないでください。
「管理会計」勉強を続けているうちに、「簿記」は勉強しなくても分かってきます。
「経営分析」の本を手元において、分析をそのまままねて、自社の過去の決算書をすべて分析することに時間をかけることです。そして分析から得た数値を同業他社の指標と比較し、その中から「改善」すべき点を見出し、一番効果の高いものからに順番に取り組んでいってください。
「新規事業・新規開発」は自らが「改善」を通じて生みだした資金で行うべきです。ただでさえ足りない会社の資金を消費することだけはやめてください。そのようにしていけば、会社はいまよりも一段と良くなるはずです。
わたし太郎の二世経営者として過ごした45年間は、ただ借金の返済だけに費やしたようなものです。銀行借り入れをわずかでも減らそうと、亡父からの遺産もすべて資金繰り不足を補うために、使い果たしてしまいました。
社長は贅沢三昧の毎日を送っていると人さまにはとかく思われがちですが、実際は質素以外の何ものでもありません。超貧乏なのです。
でも会社が10億をこえる借金を抱えていなかったら、「管理会計」を身につけることもなく、名実ともに、ただのバカ二世で終わっていたことでしょう。借金に感謝、感謝です。
さてお約束した今日の課題は「売上原価」でした。
「売上原価」が大切なのは、たくさんの「改善」の余地がこのなかには含まれているからです。
例えば
「仕入高・原材料費・外注費」
低い単価で他社から購入・発注が可能なのに、購入先・外注先の見直しが長期間成されていない。
不良率が高い。
「人件費」
人員過剰により、人件費の負担が大きくなっている。
残業代が必要以上にかかっている。
「経費」
経費が嵩んだまま放置されている。
費用対効果の測定がなされていない。
不採算部門を抱えている。
「支払利息」
事業に関係ない借入、稼働していない資産等にかかる借入金の利息が負担になっている。
売上原価
売上高 - 売上原価 = 売上総利益
商業(卸業・小売業)の売上原価
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高
製造業の売上原価
売上原価 = 期首製品・仕掛品棚卸高 + 当期製造経費 + 期末製品・仕掛品棚卸高
当期製造経費 = 原材料費 + 労務費 + 外注費等製造諸経費
次回のテーマは「製造原価明細書」。