「せっかく努力に努力を重ねて得た知識だろう。それをただで人に教えてはだめじゃないか」

日本生産性本部で経営コンサルとを勤めていた今は亡き大先輩にこう言われたことがあるのは前にお伝えした。

ふと、芥川龍之介の作品『蜘蛛の糸』を思い出、あらためて本を開いた。

大泥棒カンダタが、「あるとき深い林の中を通りますと、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這っていくのが見えました。そこでカンダタは早速足を挙げて、踏み殺そうといたしましたが、『いや、いや、これも小さいながら、命あるものに違いない。その命を無暗にとると云う事は、いくら何でもかわいそうだ』」

「いや、いや、これも小さいながら、命あるものに違いない。その命を無暗にとると云う事は、いくら何でもかわいそうだ」の横に鉛筆で線が引かれ、この「美しい言葉」は「救済」を暗示する、とのわたしの朱が書き添えてあった。

「お釈迦様は、このカンダタには蜘蛛を助けたことがあるのを思い出しになりました。そうしてそれだけの善いことをした報いには、出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうお考えになりました。さいわい、側を見ますと、翡翠のような色をした蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかkております。お釈迦様はその蜘蛛の糸をそっと御手にお取りになって、玉のような白蓮の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下ろしなさいました。」

血の池の空をカンダタが見上げると、「遠い遠い天上から、銀色の蜘蛛の糸が、一すじ細く光りながら、するすると自分の上へ垂れて参るではございませんか。」

カンタダは早速その蜘蛛の糸を両手でしっかりとつかみながら、一生懸命に上へ上へとたぐりのぼり始めました。」

ふと気づくと、数限りない罪びとたちが、やはり上へ上へ一心によじ登ってくる。

「この蜘蛛の糸は己のものだ。下りろ下りろ」とカンダタが喚いた途端に、蜘蛛の糸が、カンダタがぶら下がっているところから、ぷつりと音を立てて絶たれた。

「この蜘蛛の糸は己のものだ。下りろ下りろ」のところにも、やはり横に鉛筆で線が引かれてあり、「破滅へ」。「宝物(命)は分け合うものだ」との朱が、わたしのへたくそな字で書き添えられてあった。

文芸評論家島内景二の『源氏物語の構造分析』を夢中になって読み耽っていたことがあったから、その手法を真似て、怠け者のわたし、薄くて手ごろな『蜘蛛の糸』を書棚でみつけ、分析を試みて入れた朱にちがいない。

「宝物は分け合う」すなわちそれが「救済」に結び付く。

『蜘蛛の糸』のあとがきで、吉田精一も次のように書いている。

「いったん人間の心に『これはわたくしのものだ。正しさの幸福をひとりじめにして、誰にだってわけてやるまい』という考えがおこるやいなや、糸は切れて、人はもとの個々別々の状態におちいってしまう。(中略)地獄とは何だろう。しれは利己心にほかならない」

自分では努力の末に得ることができた「宝物」だ思っている「経営分析の手法」を、わたしもまた、二世社長の皆様と分かち合うことで、「救済」されたいと願っている一人なのだ。

損益分岐点分析事例

ご自分の手で、ぜひとも以下の問題を解いてみてください。

「変動費率」、「限界利益率」は、それぞれいくらか。

「損益分岐点売上高」はいくらか。

「損益分岐点比率」、「経営安全率」は、それぞれいくらか。

経営計画で立案した「目標経常利益」を上げるのに必要な売上高はいくらか。

問1 今後売上高の3%ダウンが避けられないとしたら、経営計画で立案した「目標経常利益」20.0をあげるには、いくら固定費を節約しなければならないか。

問2 今後売上高の5%ダウンが避けらられそうにない。一方「変動費率」の2%は企業努力により引き下げが可能の見込みである。経営計画で立案した「目標経常利益」20.0をあげるには、固定費をいくら削減する必要があるか。

某製作所の「損益計算書」と設問への回答