会計には「税務会計」と「管理会計」の二つがあります。
「税務会計」は税務署、金融関係、株主など社外に対して会社の内容を知らせるものです。
「管理会計」は会社の内部を管理するための会計手法ですから、税理士の先生はどちらかといえば不得手。したがって、経営者は自分自身の努力を通してこの「管理会計」をモノにしなければなりません。
私もかっては「税務会計」にばかり注意がいっていて、「管理会計」を等閑視していた時期(恥ずかしい話ですが、つい25年ほど前までそうでした)があります。
社長として管理会計の重要性を見過ごして、すべてを管理者任せしていた当時の資料を再分析してみました。
当時、会社では大学を出てから10年から15年の社員を幹部に登用していました。
管理者としての基礎訓練を経ることなしに幹部に昇進した彼等の拠るべきものは、ハッキリ申し上げて非営利団体でしかない大学のサークル活動しかなく、そのサークル活動の延長のノリで部下を掌握しようとしたのも無理からぬことでしょう。
しかし、それでは営利団体である会社が維持できるはずがない。
当時のあまりにも無惨な財務内容(例えをひとつだけ上げれば、カスカスの経常黒字が、会計管理を導入していれば、少なく見積もっても1億円以上の経常黒字を出し得ていたはず)に今更ながら気付き、ああ、管理会計の重要性にもっと早くから気付いていれば、より強固な会社に仕上げられたはずだ、と激しい後悔の念に嘖まれてなりません。
そして、分析している過程で忽然と立ち現れた、余りにも情けない経営者としての己の姿に呆然となり、こんな私を信用して会社を預けてくれた先代たち、会社をこれまで支えてきてくれた社員、取引先、銀行の方々に申し訳なくて、首を括りたくなるほどです。
しかし、後悔は先に立たず。
この経験から、ブログを読んでくださっている経営者の皆さんに、二度と同じ轍を踏んでいただかないよう、経営分析を通じて学び得た「管理会計」の神髄(今は亡きロシア語通訳者米原万里さん流にいえば「社長業の産業廃棄物」)を少しばかり詳しくお話しすることにします。
社長業とは本当に辛い仕事です。でもね、従業員たちは社長をどんなふうに見ているのでしょうか。
「経営者っていうのは、なんなんですかね? 俺、顔が見えないんですよ。無論、社長の顔は知っていますよ。俺たちにはわからない、難しい問題を抱えているのでしょう。だけど、なにもやっていないような気もします」(『擬態』北方謙三 文春文庫 13頁)
どうです? しかし、他人の痛みがわかる感性の持ち主は期待するのが無理だし、社長業の苦しさは経験したことのない人にはます分からないことだから、気にする必要はありません。
社長の仕事をひとことで要約れば、「経営計画を作成すること」に尽きます。
「社長が代わって、やりはじめたことは経費の削減と、事業規模の縮小整理でしょう。(中略) 要するに、目先の金を追うってことだと思います。五年先、十年先のこと考えるの、経営者の仕事じゃないのかな」(『擬態』北方謙三 文春文庫 13頁)
従業員には、経費の削減と、事業規模の縮小整理が、五年先、十年先のこと見据えてのことだ、というのがわからない。
だからこそ経営計画の公表が必要なのです。
経営計画作成には、管理会計の手法が不可欠。是が非でも習得してください。
「資金繰表」には、「金銭出納帳」・「総勘定元帳」・「会計伝票」・「損益計算書と貸借対照表」から作成する四つの方法があります。
わたしは経営者として、「資金繰り予測」をするのに便利な、「損益計算書予測」と「貸借対照表予測」とから作成できる、「資金移動表」を利用してきました。
経営者としては、一年間のうちで、おおよそ何月に資金が不足するかが分かればいいだけですから、「資金移動表」から「資金収支表」へ、そしていまは、「キャッシュフロー表」を作成して、経理部門とは別に、みずから資金予測をするようにしています。
今回は「資金繰表の一つ」である「資金移動表」の作成についてお話しておきます。
資金移動表は①経常収支、②経常外収支(固定資産関係・特別損益・その他)、③財務収支の三つで構成されています。
①経常収支は営業活動による資金の増減
②営業外収支は投資活動による資金の増減
③財務収支は財務活動による資金の増減
この三つから、一年間の会社活動によって得られた、あるいは失った現金の流れを見ることができるのです。
この数字(現金の増減)は嘘がつけません。
利益が出なかったからといって、本来ならば経費で落とすべき費用を、例えば人件費を研究開発費という名目で繰延資産に計上して見せかけの利益をつくったところで、現実に現金は既に社外に流失してしまったわけですから、資金繰りの悪化は防ぎ得ません。
それでは資金移動表から何が分かるのでしょうか。
次の表を見てください。
資金移動表から、企業のどのようなことが分かるのか
銀行の融資・審査部の担当者は、みなさんが毎年銀行に提出している決算書から、実はこの資金移動表を作成して、確認すべき事項の一つとしていたわけです。
とにもかくにも、経常収支をプラスに保ち続けることが必要不可欠な条件になるわけです。
それでは「貸借対照表」と「損益計算書」から「資金移動表」を作成してみましょう。
ここでは簡略化のため、各勘定科目を経常収支に関するもの、経常外収支に関するもの、財務収支に関するものをそれぞれひとくくりにして単純化してみました。
それが下の表になります。勘定科目をどのようにひとくくりにしたかを検討してみてください。
勉強のために、御社の決算書も、是非同じように整理してみることをお勧めしておきます。
「資金繰表」の一つ「資金移動表の作成」