いま時間を見つけては新田次郎の小説を、繰り返し繰り返し、読み返しているところです。

なぜこれほど心惹かれてならないのでしょう。

おそらくは、主人公登山家たちの、山に対する熱い思いに共感を覚えてのことだと思います。

わたしには登山の経験はありません。

もう60年も前の高校の時に、秩父の山の中を同級生4人と、テントと飯盒・米・缶詰を入れたリュックザックを背負って、夏休みの三日間をかけて歩き回ったぐらいのものです。

森林の中、10m先も見通せないような濃霧に閉ざされた、あるかないかのような道を、兄とともに丹沢登山の経験のある友人を先頭に、「熊でも現れるのではないか」という恐怖心に追われて、懸命に辿っていたときの光景が、いまでもありありと思い出すことができます。

『栄光の岩壁』は18歳のとき八ヶ岳で遭難し、凍傷によって両足先を失った主人公が、歩行訓練をはじめ、足をよみがえらせて、未登攀の岩壁をつぎつぎに征服し、ついには日本人として初めてマッターホルン北壁を征服するまでの物語。

彼は岩に向かって目を据えていた。

こんなけちな岩を乗り越えられない自分の不甲斐なさが情けなかった。

確かに、彼の足は人並みではなかった。

その人並みではない足を意識しすぎるからではないだろうか。

劣等意識が滑落させたのではないだろうか。

落ちはしないかという不安が、自分を突き飛ばしたのではないだろうか。

誰でもない自分自身がこの岩壁に敗退しようとしているのではなかろうか。

「畜生め」

彼は岩に向かって言った。

彼を阻もうとする岩が憎らしかった。

風化の極みに達した灰色の岩石に勝つためには、どうしてもその岩を乗り越えなければならなかった。

「おれはやるぞ、おれはにげないぞ」

武彦は岩に向かって宣言した。


『栄光の岩壁(上)』(170頁)を読み返しながら、わたしは自らの「人生」と重ねあわせた。

人さまに比べれば、わたしの人生は、じつに幸運の連続だった。

それでも、「死んでしまったらどんなに楽だろうか」、と思い悩んだ覚えが、恥ずかしい話だが、幾たびもあった。

クライマーが岩壁をよじ登るのも、濃霧、ハーケンに落雷して失えば、登ることも下ることもできなくなる危険、北壁を滝となって流れ落ちる雷雨、強い風、降りかかる氷の破片、鋼のように固い氷、落石、嵐、雪、非常な寒さ、などなど苦難の連続。

それに比べれば、「経営分析」を習得することなど、実に楽なことではないか。

襲ってくるのは、目の疲労、眠気、酒が飲みたい、タバコが吸いたい、トイレなどなど、せいぜいそれぐらいなもの。

二世経営者のみなさん。

会社の命運は、あなた方が「計数」を習得できるか否かに、すべてかかっているのです。

今回のテーマは、「その他の主な財務諸指標」その4「売上高支払利息比率(%)」

「売上高支払利息比率(%)

支払利息 ÷ 売上高

指標の意味

売上高に対する支払利息の負担の割合を表す

判断基準

数値が低いほどいい

中小企業金融公庫(日本政策金融公庫)資料、「財務諸指標」より





サンプル企業の「支払利息比率(%)





㈱ T-logistics(暦年資料)






次回のテーマは、「その他の主な財務諸指標」その5「流動負債回転期間(回)」