ミレーの『晩鐘』を観ていると、働いても働いてもすこしも楽にならない農民の暮らしと、会社が抱える大きな借金を返済するために、いざというときのために高額な生命保険に加入し、日々死を思い詰めていた自分の姿とがいつもダブってくる。

手をこまねいて、ただ祈り続けるしかない毎日…………

「どんなにいい大学出ても、バカはバカだ。中卒でも、頭が恐ろしく切れるやつもいる」(東直己の小説『駆けてきた少女』のなかの一文)

わたしはそれなりに勉強をしてきたけれど、莫大な借金を目の前にして気づいたのは、それまで学んできたことがまったく何の役にもたたないということだった。

ただ怯え、立ち竦んでいるだけの日々がいたずらに過ぎていく。

何かをしなければ。

まさに「バカはバカ」で、何をしたらいいのかがさっぱりわからない。

そんなある日のこと、はっと気が付いた。

そのきっかけが何であったかはもうすっかり忘れてしまったのだが、「死ぬことはいつでもできる、その前にどうしたら借金を返せるかに頭を絞ろう」と…………。

最終的な退路として心に決めていた高額な生命保険(トラックセンターを購入するさいに取引銀行から求められて加入)をすべて解約し、とりあえず自分にできそうな経営者が学ぶべき「管理会計」の勉強に没頭してみることにした。

勉強はお手のものだ。

昼に夜をつないでただひたすら勉強をし続けた。

一冊の本を、実際に電卓とペンを使いながら、少なくとも二十回以上繰り返し読み込んだ。

その成果を認めてくれたのが、中小企業金融公庫(日本政策金融公庫)の当社担当者であったSさん。

公庫が主催していた「地方銀行の融資担当者を対象とする」一週間泊りがけの講習会へ参加の労を取ってくれた。

いまのわたしがあるのはひとえにSさんのお陰だと思う。

自分で言うのもおかしなものだが、わたしの管理会計の知識はこの講習会に参加しただけで飛躍的に伸びた。大学院時代に親しくしていただいた教授がそのことを知って、定年後に教鞭をとっていた別の大学の経営学部にわたしを招き、200人の入る大教室で、三年続けて特殊講義の代講をするということまで経験した。

まったくもって、人生とは摩訶不思議なものである。

「苦しみのなかには宝物が埋まっており、努力をするもののみが、その宝物を掘り当てることができる」

確か文芸評論家島内景二氏が書かれた『御伽草子の精神史』(ペリカン社)のなかに出てくる言葉だったと思う。

努力に努力を重ねて管理会計はどうにかものにできた、と思う。

しかし、企業家は働く人たちを組織してひとつの目標に向けていかなければならない

個人的な努力ならいくらでもできるけれど、幼い頃から人と交わることが苦手で、「孤高の人」とも皮肉られていたこのわたしなどに、人を組織して一つの目標に向けて邁進するなんて、そんな難しいことができるはずもない。

後継者はこのわたくしの穴を埋めることのできる人材でなければならない。

社内にはこれまでも何人かの候補者はいたけれど、観察するわたしの目には、どの候補者も権勢欲が強くそしてあまりに独善的に過ぎ、肝心な会社を思う気持(その気持ちのなかには引先に喜んでいただける会社作りも含まれている)をほんの欠片も持ち合わせていなかった。

会社を思う気持と取引先を思う気落ちをしっかりと心の中に秘めていた弟に会社をいったん引き継いだのだが、偏差値70を超える名門私大をでてはいたが、私の穴をやはり埋めることはできなかった。

古希近くなってようやく人を得ることができた。31歳になる男で、他の誰よりも会社を思う気持ちが強く、会社をよくするために入社一年目にこれまで誰も手を付けたことがなかったルート別・ドライバー別損益を算出し、わたくしが長年かかってやっと会得できた資金収支表の作成も、決算書と試算表を使って、会社設立してから今日までの分を、わずか一か月もかからないで遣り終えてしまった。

「お前と俺といったいどこが違うんだ」

これは「改善能力が著しく高い」有能な若手管理者の一人の疑問。

そして

「改善成果がでた分、俺の給料を上げて欲しい」

ふと漏らした彼のホンネから覗いて見えるのは

「俺の給料>会社を思う気持ち」

社員の誰しもが心の中で抱いている「公式」しか見えてこない。これではこれまでも候補者たちとなんら変わるところがない。

わたくしが信頼をおく男は、とにかく友人の幅が多岐にわたり、人と交わることう得意とし、人を組織して一つの目標に向けていくことを、何の苦もなくやり遂げていく能力の持ち主でもあった。

しかし人付き合いはわたしにが最も苦手とする分野だけに、彼のすることが見当もつかず、ときとしてやり過ぎるようにも思えることもあって、ハラハラドキドキのしっぱなしである。

そんなわけで、再びミレーの『晩鐘』のように、ただ手を合わせて祈るばかりの日々を送る今日この頃である。

今回は策定した「経営改善計画書」がいかにして達成されたかの資料を確認してみる。

「経営改善計画」に取り組む前の三期間の資金収支表の、マイナスもしくはほとんどゼロに近かった「経常収支尻」が、改善計画実施後には大幅なプラスに転換し、借入金の償還年数が「無限大」から金融機関が認める10年にもう一歩の11年にまで短縮総利益が黒字同業者平均(TKC経営指標)20%(減価償却費を含み25%)を達成。

資金収支表推移(実績)

経営改善計画書49期実績

経営改善計画書50期実績

経営改善計画書51期実績

経営改善計画書52期実績

経営改善計画書53期実績

次回のテーマは「経営改善計画の目指すもの」