もう何十年も前のことになります。

某銀行の支店会議室で、その支店の主な取引先を30社ほどを集めて、講師を招いて、「計数」の重要性について学ぶ、講習会が開かれたことがあります。

90分ほどの講習会の最後に設けられた質疑応答の時間のこと、一番前の席に座っていた白髪の老人が手を挙げて立ち上がり、講師に真剣な表情をしてこう懇願する光景を目の当たりにしました。

「お話をお聞きしていて、先生の自信のほどが、よくわかりました。私の息子を仕込んでください。わたしの息子を一人前に育てあげてください。金なら幾らでも出す覚悟があります」

わたしは「中小企業経営者」のなかで、おそらく「計数」について限るなら、群を抜いて理解しているほうだと自負しています。もしいま若いころに在籍していたことのある大学院に復学したなら、「経営分析」について、博士号をとれるだけの自信もあり、それだけの資料も整えてあります。

しかしながら、若いころにマルクス経済の立場にたって勉強をしていたためでしょう。

亡父の病気で、止むを得ず代表者を継いでからも、金儲けにはまったく関心が持てないばかりか、かかえって忌避し続け、時間がありさえすれば勉強にばかり没頭してきたものですから、経営者として一番しなければならない「資本蓄積」など、まったく念頭にはありませんでした。

経営者にとって「計数」を会得しておくことは、いまさらいうまでもなく大切なことだが、「計数」をわかっていれば、即、会社の「資本蓄積」が可能になる、かといえばそれは別問題だ。

たまたま「計数」を学ぶ時間的余裕があったから、どうにかこうにか会得できたし、会社を倒産させずにもこれたけれど、「資本蓄積」という面からみるなら、悲しいかな、経営者としては失格者の一人だろう。

でもこうも思う。

わたしは亡父からただ会社を譲られたにすぎなかったが、講習会で白髪の紳士が、「お金をいくらでも出す」といっていた「計数」を、他人の手を借りることなく、会社経営の「秘伝書」として、会社とともに息子に伝えることができた。

銀行の支店長から、会社を継いでくれた息子が、「ほかの会社の社長もこのようにわかりやすい資料を作ってくれると助かるのだが」といわしめるほどに完璧な資料を作成できるようになった。

そのことを伝え聞いたとき、わたくしは思わず心の中で手を合わせてしまうほど、ありがたかった。

「中小企業診断士」の友人もいるのだ。

「時すでに遅し」だけれど、「計数を教え込んでくれるなら、お金をいくらでも出す」という老経営者がいたくらいだ、中小企業の二世経営者を対象にした「管理会計」を教える新規事業部を立ち上げていたなら、ひょっとしたら「資本蓄積」ができ、経営者としても成功していたかもしれないと、反省することしきり。

でもこの「計数」は、やはり教えられるものではなくて、汗をかきながら、自ら苦労して会得していくものなのだ、と自分の経験からもそう思う。

今回もT-logistics社の、実際の「決算書」をお借りして、「経営計画の立案」に不可欠である「資金繰り表」作成の方法を実際に行ってみたい。

ただしここでお断りしておきたいのですが、「資金繰り表作成」のための「算式」はお教えすることはできません。なにしろこれを学ぼうと講習会に参加すれば、何十年も昔でも、わずか5日間の講習で20万円もかかったのです。

わたしの目的は、これまでに学んだ「計数」のすべてを、会社を継いでくれたたった一人だけに伝えることでしたから、その役目はすでに果たし終えました。

わたしには、残された時間内にしなければならないことが、もう一つだけあります。

すべての時間はそのために使いたい。

なのでいくら教えてくれと言われても、講習料として、例え1000万円をいただいたとしても、その時間を割くことはできません。

でも賢明なみなさま方のことです。

この表をそのまま書き写して、じっくり観察しながら自ら工夫をしてみることで、「資金繰り表作成」のための「算式」は、至極簡単に見つけ出せるでしょう。

T-logistics社「貸借対照表」




T-logistics社「損益計算書」



T-logistics社「総合資金繰り表」





次回からは、「資金繰り表予測」をするために、どうしても欠かすことのできない「貸借対照表予算」の作成をテーマに、何回かに分けてお話ししたと思っています。