今朝(2月21日)の「朝日新聞」総合3面広告欄に、「会計学習の定番教科書シリーズ」として朝日新書二月の新刊と題されて、『財務3表一体理解法』・『財務3表一体理解法発展編』・『財務3表図解分析』が掲載されていた。

えっ?! 「累計80万部突破」

一体どんな人たちが読んでいるのだろうか。

わたしが知っている限り、中小企業の経営者のなかで、「財務3表」をしっかりとものにできている人は、これまでに見たことがない。

そもそも「財務3表」が「損益計算書」・「貸借対照表」・「キャッシュフロー表(あるいは資金移動表もしくは資金収支表)」からなっていて、「損益計算書」と「貸借対照表」の2つから、「キャッシュフロー表」・「資金移動表」・「資金収支表」といった「資金繰り表」を作れる人は、資金繰りを預かっている中小企業経営者のなかで皆無なのではなかろうか。

今回の「わたしの仕事」(1)から(7)では、「損益計算書」と「貸借対照表」とから「総合資金繰りチェック表」を作成するまでの手続きを、中小企業の経営者に伝えたく思い、解説してきた。

その前に、「経営分析」の他にもうひとつ、わたしが高校時代から取り組んできて、ただの時間の浪費に終わってしまった「小説」について述べておきたい。

学校時代に、志賀直哉が「小説の神様」だと教えられたことはないだろうか。

でも、わたしは山本周五郎こそが「小説の神様」だ、と思っている。

余談だが、『雨あがる』の主人公三沢伊兵衛の師である禅寺の和尚の口癖「石中に火あり、打たずんば出でず。この言葉を、学問でも武芸でも、困難なところにぶつかると、これをじっと考える」を、わたしはこれまで長い間、警句としてきた

丁寧に何度も読み返していくと、山本周五郎のどの作品からも、小説の基本構造である「起・承・転・結」が、ものの見事に浮かび上がってくる

わたしは本当に何ごとにも気づくのが遅すぎる。

あれこれ読まず、山本周五郎に焦点を絞ってもっと丁寧にそして深く勉強していたなら、ひょっとしたら50代半ばには小説新人賞を得ていたかもしれない、と深く深く反省するばかりである。

この土日にかけて、山本周五郎の短編集を、三冊読み返してみた。

『野分』も小説の手本として見事だけれど、『梅咲きぬ』と久しぶりに取り組んで、作品作りの巧みさに、あらためて驚き、ノートに次のように書き留めておいた。

允許を目前にして、和歌をつくるために夜を明かしてしまった主人公加代。

玄関に夫直輝を送り出した主人公の顔色の悪さを見た姑かな女に、和歌を見せてほしい、と言われ隠居所に向かう。

そしてこれだけ詠めるようになったのだからもう和歌はやめて、他の稽古事を始めるように、といわれる。

(主人公が姑に抱きはじめた恨みが、解消されていく過程を描く)

もう少し和歌作りを続けてほしいと願う主人公に、これだけ上達すれば十分です、と姑は受け付けようとしない。

帰城してきた夫は、主人公が歌稿を引き裂いている主人公をみて事情を察した。姑はものに飽きやすい性格だった。どの習いごとも、あともう一歩のところまでくると、必ずあきて捨ててしまった。

夫が隠居所にいくと、端切れを綴り縫いして座布団を細く小さくしたようなものに、姑は火熨斗をかけていた。「あの部屋は冷えますから。それにあのお人はあまり丈夫ではないから」。夫は姑に和歌を続けさせてほしい、と頼んだ。

翌朝主人公は姑に隠居所に呼ばれ、「誰一人うちあけたことのない話を聞いてほしい」といわれた。

「実家は身分が低く、稽古事が思うようにならなかった。老職のいえの妻として恥ずかしからぬよう、教養を身につけたいと思い、茶の湯を始めて才を認められるとやめ、連歌、笛、鼓などすべて九分どおりでやめてしまった。わたしが芸事を次々に変えたのは移り気からだとお思いになりますか」

「武家のあるじは御主君のために身命の御奉公をするの本分です。その御奉公に瑕のないようにするためには、いささかでも家政にゆるみがあってはなりません。あるじの御奉公が身命を賭しているように、家を預かる妻の勤めも身命をうちこんだものでなければなりません」

「学問諸芸は人を高めます。けれど道の奥を究めようとすれば、『妻の心』にスキができます」

「妻が身命を打ち込むのは、家を守り、良人に仕えることだけです」

主人公はここで姑が和歌をやめなさいといったわけを理解。

「こんなものを作りました。あなたの寝間は冷えます。これを肩にあてておやすみなさい」

転結

帰城してきた夫は主人公の見違えるように冴え冴えとした顔色に驚いた。

「わたしも母上様のように、やがては嫁に肩枕を作ってやれるような、よい姑になりたいと存じます」

わたしは小説を読み始めてこれまでの六十年余り、いったいどんな小説の読み方をしてきたのだろうか。山本周五郎の作品だって、何度も何度も読み直してきたはずなのに。

「石中に火あり、打たずんば出でず」の道は,いまだにはるか遠い。

そしてこうも思った。

「武家のあるじは御主君のために身命の御奉公をするのが本分です。その御奉公に瑕のないようにするためには、いささかでも家政にゆるみがあってはなりません。あるじの御奉公が身命を賭しているように、家を預かる妻の勤めも身命をうちこんだものでなければなりません」

この文章を読み返しながら、父から会社を預かってからも、時間を見つけては小説ばかりに読み耽って、「会社のために身命を尽くしてこなかった」ことにあらためて気づいたのだった。

さて本題。

「損益計算書」と「貸借対照表」から「総合資金繰りチェック表」を作成する手続きを解説しよう。


損益計算書




貸借対照表




総合資金繰り表の作成