わたし太郎は経済学部を卒業後大学院に進んだが、狭心症で倒れた父に請われて、中退して会社を継ぐことになった。

しかし経済学部を出たといっても計数にはまったく不得手で、父が企画して立ち上げた新規事業を任されたものの、自分では一生懸命にしたつもりだが、三年もしないうちに事業を閉鎖しなければならない事態に陥ってしまった。

せっかくの投資をムダにしてしまったので、社員たちからは陰で「バカ息子」呼ばわりをされた。

政府系の金融機関に勤める後輩が、会社の担当者となって赴任してきたのは、そんなときだった。

後輩は、銀行の融資担当者を対象にした一週間泊りがけの講習会に、上司を説得して、わたしをねじ込んでくれた。

講習に参加した銀行員たちとの顔合わせの時、「講習会に出たところでムダ、ムダ、中小企業の社長なんかに計数がわかるはずない」、と散々に馬鹿にされた。

しかし、初日の講義で、銀行員たちが振替伝票を起こせないのを知って驚いた。

一週間の講習期間中、銀行員たちは毎晩連れ合って花街に飲みに出かけていつたが、わたしは睡眠時間を削りに削って勉強に没頭した。

その甲斐あってか、自分で言うのもなんだが、講習会最後の日に行われた実習で、「経営分析」と「市場調査に基づいての経営計画の立案」のテーマを課せられたが、並み居る銀行員たちを抜きダントツの成績を収めた。

講習会へ参加の労を取ってくれた後輩には、恩人として今日まで深く感謝し続けている。

少しでもその恩返しがしたくて、会社から帰ってからも、寝食を忘れてパソコンに向かう。

中小・零細を合わせれば百万社あるという。そのなかには、かっての自分のように計数の不得手な「経営者」・「二世経営者」も多いことだろう。

その人たちに向けて、多いときでも二百人ほどしかアクセスしてくれないけれど、ブログを書き綴っている。

「たくさんの本を読むことと、文章を書けるようになること」、「スポーツを観戦するのと実際にスポーツをすること」、「絵画を鑑賞するのと、絵画を描くこと」がまったく別物であるように、計数も自分で実際にやってみて、壁にぶち当たっては右往左往し、汗をかきながら学び取っていくものだと思う。

何ごとも一流になるのは至難の業だが、それでも努力をすることが無駄だとは思わない。